日曜日の日暮れ時、高速の上りは行楽帰りの車で渋滞している。私はその渋滞に連なるヘッドライトを横目に、下り車線をひたすらに突き進む。そしてとあるICで高速を降り、山中湖方面へと車を走らせる。相変わらず反対車線はずっと渋滞のままだが、私の走る車線に車は殆どいない。私は時々バックミラーに目をやりながら、後方に尾けてくる車がないかを確認する。さっきから後方には車は一台も見えないというのに、私にはそれをしないと不安でならない理由がある。それはトランクに入っているアレのせいである。私はアレのせいで、わざわざ人気のない週末の山中湖まで車を走らせる羽目になっているのだ。
事の発端は私の祖父がアレを持ってきたことから始まる。祖父はアレを私の手に託し、反対の手には数枚の札を握らせて言ったのだ。「こいつをどうにかしてくれ」と。断れ、という自分がいる一方で、小さい頃から私をかわいがってくれた祖父を思うととてもじゃないけれど断り切れない自分もいる。二つの天秤はしばらく均衡を保っていたが、祖父の強いまなざしを受けて傾いた。
そういうわけで、私は週末の真夜中の山中湖へ向かっている。周囲に悟られてはいけない。大きな音が出るはずだからと、金持ちの友人に頼み込み、彼の父親が所有する山中湖の別荘を一日だけ借りられることになった。だから決戦は今日しかないのだ。
私は別荘に着き、鍵を開けると早速アレを取り出した。そしてこれまた別の友人から借りたサンダーを手にした。そう、私は今宵、祖父から預かった金庫をサンダーで強行的に開けようと思っている。きっと大きな音が出るから都内にある私のアパートや横浜の住宅街にある祖父の家では近所迷惑になるのでとてもできない。それに何より、祖母に知られてはならない。なぜなら金庫の中に入っているのは…祖父の初恋の人の写真だからである。私は3万円の報酬で、このミッションを請け負ったのだ。